ジリリリリ――。
静まり返った家のなかに、電話の音が鳴り響いた。
現在の時刻は22時過ぎ。本来ならば非常識であるはずの時間帯だが、この電話は、今の時間でなくてはならない訳があった。
「よしっ」
鳴り響く電話をしばらく見つめていた有利だったが、意を決したのか、勢いよく受話器を手に取った。
「もしもし、村田?」
『あっ、やっと出た。何回コールさせるのさ〜』
受話器の向こうから、少しおどけた調子の声が聞こえてくる。
しかし、電話に出るまでに時間がかかったのは事実だったので、有利は素直に謝った。
「う・・・ごめん」
『なんてね、冗談だよ。でも、出てくれたって事は、僕のお願いきいてくれるんだよね』
「・・・・それが約束だったし」
『じゃあ、早速はじめようか。営みをv』
「いっ、いとなみとか言うなっ!!」
なぜ、この電話が今でなくてはならないのか。
その訳は、有利と村田がある賭けを行なったのがきっかけだった。
“勝ったほうが、負けたほうへお願いできる”という名目ではじまったその賭けは、白熱した戦いをみせた。
結果、見事それに勝利した村田が、有利に‘お願い’する権利を得たのだ。
そして、村田が有利にしたお願いというのが、これ。
゛電話でエッチをする゛という驚くべきものだったのだ。
それをするならば絶対に夜だ、という有利たっての希望で、今の時刻となったわけである。






  テレフォンショッキング






『準備できた〜?』
スピーカーのボタンを押し、ベッドのかたわらに置いた受話器から、村田の声が大音量で室内に響いた。
「もうちょと静かに話せよ」
『ごめん、ごめん。でも、どうせ誰もいないんだろ』
今日という日にしたのにも、訳があった。
普段、滅多なことがない限り家を空けない両親が、今日は家にいないのだ。
それもあり、有利はお願い決行を今日の夜にしてもらったのだが、誰も家にいないかというと、そういう訳でもなかった。
「勝利が、隣の部屋にいるんだって」
『勝利・・・ああ、君のお兄さんか』
いくら両親がいないとはいえ、壁1枚はさんだ向こうには自分の兄、勝利がいるのだ。
おそらく寝ているとはいえ、うかつに大声など出したら、聞こえかねない。
有利としても、気が気でなかった。
「えーい、さっさとやるぞ!!」
『あれっ、やる気マンマン?』
そのため、というか、とにかく有利としては、村田のお願いをささっと終わらせてしまいたかったので、自ら話を切り出す。
そんな有利をちゃかすように、村田は返事を返した。
「むぅーらぁーたぁー」
『わかった、わかった。それじゃあ、ズボン脱いで、アレやって。ああ、はいたままでもいいけど』
「アレって・・・」
『えっ、渋谷もしかしてわかんないの!?アレっていうのは、1人エッ・・・』
「わぁー!!まてまて。はやまるな!わかる、わかるから!!」
言わずともわかる‘アレ’というのは、いわゆる1人エッチのこと。
そんなことを、恥ずかしげもなく口頭で言おうとする村田を、有利は必死で止めに入った。
『イヤ?』
有利がしばらく無言でいると、電話口から村田の声が聞こえてくる。
イヤかと聞かれれば、有利は嫌だった。
いくら姿が見えないとはいえ、人の前でアレをするなど、嫌じゃない訳がない。
だが、有利はしばらく考えこんだあと、おもむろに呟いた。
「やるよ」
村田は、決して自分にそれを強要しているわけではない。
しかしなぜか有利は、それを断るのがためらわれた。





   *  *  *  *  *






先ほどまでは確かに静かだった部屋の中に、今は甘い声が響き渡っている。
「んっ・・・あっ・・はぁ・・」
さすがにズボンを脱ぐのはためらわれたので、服を着たまま行為に及ぶことにした。
はじめはおそるおそるだったが、だんだん歯止めがきかなくなってくる。
しかし、有利は声を抑えることだけは、忘れなかった。
『渋谷、声、抑えないでよ。僕に聞こえない』
すると、電話口から、村田が不満気な声を漏らす。
その声に有利は手を止め、反論し始めた。
「そんなことっ、いったって!」
『あっ、手止めてるでしょ。だめだよ、動かしてなきゃ』
「でっ、でも、いま村田と・・・」
『動かしながら、話して』
容赦ない村田に怒りを覚えつつも、有利はしぶしぶ手を動かし始める。
もうすでに昂ぶっていたそこからは、蜜が滲んできていた。
「あっ・・・あんっ・・うん・・・・」
『渋谷、声抑えないでってば』
有利が残された理性で必死に抑えこんでいる声に、村田はまたもや不満を漏らす。
有利としては、先ほどよりも、抑えていないつもりだったし、これ以上声を出せば、本当に隣まで聞こえてしまいそうな気がした。
「はっ・・・もっ・・むり・・・・んっ」
『だーめ。声、聞かせて』
村田に言われた通り、手を動かしながら、有利は話しかける。
しかし、村田は無情にも、あっさりと否定してしまう。そして、そのまま甘い声で続けた。
『君の声が聞きたいんだ』
「っ!!」
確かに電話ごしの声だったはずなのに、有利はまるで耳元で言われたかのような錯覚を覚える。
その瞬間、有利のなかで今まで抑えてきたものが、すべて吹っ飛んでいた。
「ふっ・・・んぁ・・・・ああっ・・」
隣の部屋に勝利がいるのも忘れて、有利は感じるままに喘ぎ声をあげる。
そして、自分でも無意識のまま、自分の胸元に空いている手をもっていき、そこにある突起を握りつぶした。
「ふっんぅ・・・」
見えていないはずの村田にも、有利の行動がわかったのか、クス、という笑い声が聞こえる。
有利はそんなことも気に留めず、無我夢中で自身を扱き続けていた。
そこはすでに、蜜が溢れ出している。
「うんっ・・・んんっ・・あっ・・・・」
そして、ついに有利が絶頂をむかえようとした時、
『渋谷、手とめて!!』
村田から、静止の声がかかった。
有利はその声に反応して、ピタッと手を止める。
しかし、もうすぐイキそうな自身をそのままにしておけるはずもなく、そろりそろりと、それに手を伸ばし始めた。
途端に、それを見透かしたような、村田の声が聞こえてきた。
『もうちょっと、我慢してて。今から、僕の言うとおりにしてね』
「ふぇっ・・・?」
この期に及んで、いったい何をさせようというのか。
有利は、なんでもいいからはやく、昂ぶったままでいる自身を解放させたかった。
そんな有利を知ってか知らずか、村田は電話ごしに楽しそうな声を響かせる。
『えっと、ねぇ・・・・、自分の指をあそこに入れて続けて』
「ゆびっ・・・?」
一瞬何のことだか訳が分からずに、有利は首をかしげた。
だが、すぐになんのことだか、理解することができた。
「むっ・・・むり・・」
つまり、自分の窪みに指を差し込んで、続きをしろ、ということなのだ。
当然、自分でそんなことをしたことがない有利は、出来ないと訴える。
『大丈夫だよ。いつも僕がやってるみたいに・・・ほら、ゆっくり・・ね』
「・・・・・うんっ」
有利のそんな声を無視しながら、村田は優しく話しかけた。
先ほどまで嫌がっていた有利も、なぜか村田に言われると逆らえないらしく、素直に頷く。
「ふぅっ・・・んぅ・・・」
ゆっくりと、自分の窪みに指を潜り込ませる。
意外とすんなり入ったそれの圧迫感に、有利は思わず顔を歪めた。
有利は、ここからどうするべきかわからず、指を差し入れたまま硬直してしまう。
『自分の感じるままに、指を動かすんだ』
そんな時に、村田が有利に声をかける。
こんなにもタイミングバッチリで声をかけられると、どこかで見ているんじゃないかとさえ思えてしまう。
しかし、今はそんなことを気にしているほどの余裕は、有利にはなかった。
言われたとおり、おそるおそる指を動かし始める。
「はぁっ・・・ん・・うぁっ・・・・」
根元まで差し込んだ指で、自分の中を動き回った。
掻き回したり、曲げたりしているうちに、有利はひときわ甲高い声をあげる。
「んあっっ・・」
『そこがいいんだ』
有利が声を上げるのを見計らって、村田がそう声をかけた。
その声にも反応してしまうくらい、有利はもう限界ギリギリだった。
「はっん・・・むらっ・・もっ・・う・・・」
決して姿が見える訳ではないのに、有利は村田に必死に懇願する。
電話ごしの村田はそれに気づいたのか、しょーがないな、と前置きをしたあと、おそらく満面の笑みだろう声で言った。
『イっていいよ』
その声を聞くなり、有利は一気に自身を昂ぶらせる。
「あぅっ・・・んはっ・・ああっ・・・・・」
甘い喘ぎ声を部屋中に響かせると、そのまま勢いよく己の欲望をぶちまけた。







   *  *  *  *  * 







『渋谷、怒ってる?』
事がすんだあと、村田が申し訳なさそうな声で話しかける。
有利としては、そんな悪いと思うなら最初からさせるな、という感じだ。
「あったりまえだろ!!人に、あっ・・あんなことやらせやがって」
『あはは・・・ごめん。でも、かわいかったよ?』
「おまっ・・・何言ってんだ!!」
村田の言葉に、見るみる有利の顔が赤くなっていく。
有利は、相手が電話ごしでよかったとホッとしたが、おそらく村田にはバレバレであろう。
『でもさぁ・・・』
と、突然村田が深刻そうな声で話し出す。
有利は何事かと、電話に耳を傾けた。
『やっぱり、ちゃんとやったほうがいいよね〜』
「ちゃんとって・・・・」
何を言い出すかと思えば、所詮そんなことだ。有利はもう、言い返す気もおきなかった。
しかし、村田はまた有利が何の事だかわかっていないと思ったのか、はたまた嫌がらせなのか。
村田はそのことを、更に詳しく喋り始める。
『だってさ、渋谷の声もちゃんと聞きたいし、アレを・・・』
「だぁー、やめろっ!!それ以上言うな!!!」
このままだと、また変なことを言われかねないと、有利はささっと電話を切ることにした。
「じゃあ、お休み。村田!!」
そう言って逃げるように電源を切ろうとしたとき、かすかに村田の声が聞こえてくる。
『お休み、渋谷。大好きだよ』
そう言われたあと、有利も小さく「俺も・・」と返事を返した。
電源を切ったあとだったので、おそらく村田には聞こえなかっただろうが。







翌朝、有利が目を覚ましドアを開けると、バッタリと勝利とでくわした。
「おはよ」
「おっ、おう」
いつも通りに声をかけると、勝利は赤い顔して、その場から逃げ去るように立ち去っていく。
「なんだぁ、あいつ・・・」
勝利のいまの行動が何を意味するのか、有利がそれを知ることは、おそらくこれからもないだろう―――。



















村ユ初裏なんですが・・・・
これじゃただの有利の○慰ショーですよ(爆
次こそは、もっと普通のものを・・・!!