辺りも暗くなり始めた頃、やっと部活の練習も終わって、オレは他の奴らと校門に向かって歩いていた。
これで今日も“おれ”の時間から解放される。
まあ別に、もうそうでいることなんて慣れてるから、たいして苦にもならないけど。





  君のすがた





「なあ、雅紀」

部の奴に呼ばれ、一人で先を歩いていたオレは後ろを振り返る。

「なに?」
「いや、これからみんなで何か食っていかないかって。お前も行くだろ?」

そう言って、そいつは笑う。オレがついて行くと信じて疑わないって顔だ。
正直あんまり行きたくはなかったけど、変に断わって妙に思われるのも面倒だ。
どうしようかと視線をさ迷わせていると、ふと校門の先にいる人影が目に入った。

「橘?」

そう距離は離れてなかったから、声が届いたのか橘はオレのほうを向く。

「げっ!?先輩・・・」

あからさまに嫌な顔。それはそれで、面白いけどね。
オレは少し、意地悪い笑みを向けた。

「そんなに俺に会いたかったの?わ・・・」
「わぁぁぁ!!学校でその事言うなっていってんだろっ!!」

橘のあまりの慌てっぷりに、知らず笑いが込み上げてくる。
些細なことからオレは橘が極道の息子だということを知った。
けどそのせいで、オレの本性もバレちゃってるんだけどさ。
それなのに、橘の態度は前とちっとも変わらない。変わったのは、むしろオレのほうだ。

「で、わざわざ呼び止めた用件はなんスか」

オレが声も立てずに笑っていると、橘が不機嫌そうに声を掛けてくる。
ただなんとなくだっただけで、別にこいつに用事があるわけじゃない。
でも、これは使えるかもな。

「おい、雅紀?」

タイミングを見計らったようなその声。
オレを誘った奴が、不思議そうに声を掛けてきた。

「なんだ、橘。わざわざ待っててくれたんだ?」
「!!?」

辺りに響くように、わざと大声を張り上げる。
橘はギョッとした顔をして、オレを見つめてきた。

「おっ、おい・・・」
「悪いな。なんか後輩が一緒に帰るために待っててくれたみたいでさ」
「ちょっ、誰があんたなんか・・・」
「ったく・・・」

素直に話に合わせてくれればいいものを。
オレはきゃんきゃんと煩い橘の耳に、そっと唇を寄せた。

「あんま騒ぐと、どうなるか知らないよ?わ・か・さ・ま」
「っ!!」

ピタリと、橘がおとなしくなる。
オレはその隙に、後ろで困惑している“友だち”ににっこりと笑い掛けた。

「そういう訳だから、ホントごめんな。また誘ってよ」
「あっ、ああ。そっか。相変わらずだな、雅紀は」
「ははっ」

そんなわけで特に怪しく思われることもなく、オレは部の奴らと別れることが出来た。
橘のお陰といえばそうなんだろうけど、お礼なんか言ってやんない。
こいつだって、そんなこと望んじゃいないだろうし。
オレのことを睨むように、橘は立ち尽くしている。
ホントに面白いやつだ。それでこそ、イジメがいがあるってもんだよ。
さて、次はどうやって貶めてあげようかな。
妙な高揚感を覚えながら、オレは橘とともに家路に着いた。














まだ恋に気が付く前な感じで。
あまり接点がないんですが、個人的にイチオシだったりします(笑
雅紀くん視点は難しい・・・・・・