「好きだよ、泉」
唐突に、何でもないように呟かれた言葉に。
ふいに目頭が熱くなって、慌てて首を振る。
「ばっかじゃねぇの。クソレフト」
いつも通りに言って、水谷の頭をバシっと叩く。
すると彼もこれまたいつも通りに、拗ねたように頬を膨らませた。
「ひっどーい。泉ってばオレの愛をさー・・・」
愛だって?
まったく吐き気がする。
愛だの恋だの、こいつはいつだってそうだ。
へらりと気の抜けるような笑みを浮かべて。
誰にだって、同じような顔して。
同じように、スキだというんだ。
ああ、ホントに吐き気がする。
こいつに。
こいつに期待している自分自身に。
「知るかっ」
冷たく吐き棄てて、泉は独り部屋を出る。
彼の言葉と同じで、何も生み出さず作り出さない言葉。
口に出していたものがそうであると、果たして気づいていたのかどうか。
ぱたりと、静かに扉が閉じた。
後ろ姿を見送って、水谷は一人溜め息を吐く。
「わかってないなぁ、泉は」
そう呟いた顔は、今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。
触れようとすれば怯えて。
そのくせヤサシサを求めていて。
動こうとも、況してや理解しようともしないくせに。
それってさ、狡いと思わない?
“確信”に近づかないようにしている、それは意識的で無意識の会話。
なんにもわかっちゃいないんだよ、泉は。
結局、お互いが臆病なだけだろう?
くすりと笑みを浮かべて、水谷はゆっくりと席を立った。
煮え切らないミズイズ。
実はこっそり好きなんです(笑
これ以上、何を失えばいいんだろうか。
何かを、犠牲にすればいいんだろうか。
オレはボンヤリと、その背中を見詰める。
華奢な身体にエースナンバーを背負って、でもしっかりと地に足をつけて。
いつものオドオドが嘘のように、頼もしい背中。
いつからだろう。
その姿に、眩暈すら覚えるくらい、
強く。強く。惹きつけられたのは。
気が変になりそうで、頭がおかしくなったんじゃないかと思うくらい。
オレは君を求めてる。
今よりも、もっと。
君と話して
触れて
抱き締めたい。
背中を見詰めたまま、ゆるゆると首を振る。
分かってるさ、そんなこと。
叶わない願い。届かない想い。
そんな大それたこと、望まないから。
そう、代わりになるのなら
何を失ってもいい。犠牲にしたっていい。
どうせ、もうオレに残されたものなんて、そうはない。
だから、だから
『いい人』
そうやって向けられるキラキラの笑顔だけは。
オレの唯一大切なものだけは。
奪わないで。
他のものは、何もいらないから。
片思い栄口。
珍しく弱気で白いです。