うだるような暑さが続き、いい加減辟易してくる。
噴き出す汗を拭いながら、雲ひとつない青空を見上げた。
「あっつーい・・・」
呟いたところでどうなる訳もなく、ただ永遠とも思える暑さだけが広がっていた。





    マーキング





部室までの道のりをのんびり歩いていると、先を行く9組の姿を見付ける。
相変わらず仲いいなーと思いながら、水谷は彼らのもとへ小走りで近づいた。
ポンと、3人の真ん中を歩いていた三橋の背中を叩く。

「やっほー、三橋」
「あぅっ!?み、水谷君」
「おー、水谷じゃん」
「んだよ、クソレか」

まさに三者三様、それぞれ全く異なった返答が返ってきた。
まあ大方予想通りの反応だったので、泉がもの凄く嫌そうに顔を顰めているのは気にしないことにする。
水谷は嬉しそうに自分を見上げている三橋に向かって、にへらと笑みを浮かべた。

「今日も暑いよねー」
「う、うん。そ、だねっ」
「あー、ほら。三橋、すごい汗じゃん!」
「う?」
「じっとしてて・・・・」
「・・・じゃねーよ。何してんだ、水谷」

会話の流れでさり気無さを装って、三橋の額から噴き出す汗を拭ってあげようと試みるものの。
横から有り得ないスピードで腕を掴まれ、水谷はふいと顔を向ける。
鬼の形相で睨みつけている泉と視線がぶつかったので、にっこりと笑みを浮かべた。

普段とは明らかに別種の水谷の笑顔に、泉は何とも言えない敗北感を覚える。
イライラする気持ちのままに、乱暴に水谷の腕から手を放した。

「泉って意外とわかりやすいよねー」

楽しそうに水谷が笑うと、ピシリと泉の空気が変わる。
2人のあいだに険悪な雰囲気が張り詰め、そして―――――。
のんびりと、緊張感の欠片もない声が響いた。

「やっぱさー、こんな暑い日はアレか?」

なー?と田島が首を傾げながら、三橋に問いかける。
三橋はビクリと体を震わせ、どこかホッとしたようにこくりと頷いた。
それを見ていた泉の空気が、一瞬にして緩む。
いつもの優しげな笑みを浮かべながら、くしゃりと三橋の頭をかき混ぜた。

(多分あれ、ごめんって意味も含まれてるんだろうなー)

分かりやすすぎて、思わず笑みが漏れる。
泉は周りが思っているよりずっと、顔に出やすいのだ。
それこそ完璧に思考を悟られないように出来る者など自分と、栄口くらいのものだろう。

いやまあ、田島は別格だけどね。
誰に言うでもなく、心のなかだけでそう付け加える。
恐らく2人の異様な空気におどおどしていた三橋のために、あのタイミングで声をあげたのだろう。
届かないと知っていながらも一途に守ろうとする彼らは、水谷の目から見ても格好よかった。
もし自分ならば、笑っていられるかどうか。
いっそのこと、壊してしまいたいと望んでしまうかもしれないのに。

ああ、でも。だからって。
手放す気なんかさらさらないけどね。

せめてものお礼に、水谷はいつも通りの“水谷”を演じることにする。
へらっと笑みを浮かべて、田島に声を掛けた。

「ねぇねぇ、アレってなんのこと?」
「なんだよ、わかんねーの?水谷」
「あのねぇ、オレには天然語を理解する能力はないの!」
「あ、の・・・水谷く・・」

ちょんちょんと服の裾を引っ張られて、水谷は視線を転じる。
にへらーと笑顔を向けると、三橋も嬉しそうに控え目な笑みを返してくれた。

「あの、ね。プール、だよっ」
「プール?」
「ああ、田島が言ってたアレってやつか」
「おうっ。やっぱこういう日はプールで泳ぎたいよな!」
「う、んっ」

2人で笑いあう天然コンビを見ながら、泉と水谷がやっと納得の表情を浮かべる。
プール。確かにこう暑い日だと、そういう場所に行きたくなるかも知れない。
でもなーと、水谷は無表情に三橋のことを見つめる。
どうやら田島とプール談義に花を咲かせているようで、こちらの視線に気づく様子はない。
別段それが羨ましいとも思わないし、だいたい三橋を縛りたいわけじゃないんだから。

「あーっ!!なんか話してたらプール行きたくなっちまったっっ」

水谷が何やら考えこんでいる横で、田島が急に大声を張り上げる。
声の音量にびっくりして跳ね上がっていた三橋に、にかっと豪快に笑いかけた。

「三橋も行きたいよな!ゲンミツに!」
「え、あ?うぅ?」
「だよなー。うんっ。じゃあ、ちょっくら花井に提案してくるぜっ」
「あっ、おい!?田島っ!!」

泉の制止の叫びもなんのその。
田島はあっというまに、風のように走り去っていってしまった。
あとに残されたのは、いまいち今の状況が分かっていない三橋と。
呆れかえって深々と溜め息を吐いている泉と。
そして。

「プール、ね」

何故か楽しそうにそう呟く水谷の姿だけだった。
そんな水谷を、泉が胡散臭そうに目に映す。
三橋がこてんと首を傾げると、水谷はいつもと変わらない緩んだ笑みを浮かべた。

「三橋はみんなとプール行きたいんだ?」
「え、あと。うんっ」
「そっかー。楽しいもんね」
「水谷、くんも、好き?」
「そうだねぇ・・・三橋と一緒なら楽しいかもね?」

そっと囁くように告げると、ばふっと三橋の顔が真っ赤になる。
いつまで経っても初々しい反応を返してくれる三橋が、可愛くて可愛くて仕方がない。
水谷はそれを他人に見られるのが、もったいないとは思わなかった。

(だって、可愛いこの子はオレのものなわけだし)

だから、プールに行きたいのなら全然構わない。
その華奢で、柔らかそうな真っ白な素肌を晒すことになろうともだ。
ようは、オレのものだってことが分かればいいんでしょ?

「三橋」
「へ、ぅ?」

甘く名前を呼んで、三橋の肩口に顔を埋める。
服の襟元をそっとずらすと、そこへ自らの唇を寄せた。

「みずたっ・・・んっ・・いっ、たぁ・・」

水谷がきつく吸い上げると、ピリッとした痛みが三橋を襲う。
その痛みに耐えるように、水谷の服をぎゅっと握り締めた。

「はっ・・・ふぅっ・・」

水谷は吸い付いた場所をペロリと舐め上げると、ゆっくりと三橋から離れていく。
潤んだ瞳で見上げてくる三橋の肩口にくっきりと残った紅い印を見て、満足そうに微笑んだ。
未だに何が起こったのかよく分かっていないような三橋を、自らの腕のなかにおさめ。
さっきから痛いほどの視線をぶつけてくる彼に、にっこりと笑ってみせた。

「おまえ、何してんだよ」
「んー?何って、見てわかんなかったの?」

キスーマーク、付けてたんだけど?
なんでもないことのように水谷が言うと、泉の表情が一気に険しくなる。
しかし水谷の腕のなかで、もぞもぞと動く三橋を見付けたのだろう。
ふっと、彼の空気が緩んだ。
いやー、ホントすごいなぁと、対してそうとは思ってない様子で水谷がくすりと笑う。
見せ付けるようにぎゅうっと三橋を抱き締めながら、泉を真っ直ぐに見つめた。

「プール、楽しみだねぇ。泉?」
「っ・・・」

さあ、これから泉がどうでるのか。
せいぜい高見の見物させてもらうとしよう。
例えプールに行けなくなったとしても、それはオレのせいじゃないし。ねー?















み、水谷君を黒くしすぎましたっ・・・(汗
ヘタレ一直線なクソレも大好きですが、真っ黒な彼も大好きなんです!
とか、言い訳してみたり。・・・・・駄目ですかね?
同志様熱烈募集中(笑