マシュマロハニー


癖になる感触だよなぁと思う。
だんだんと止まらなくなって、気付けば夢中になっていて。

「あのっ・・・田島く・・」

凄く気持ちよさそうで、初めは1回だけのつもりでつんと突付いてみた。
ぷにっと指が埋まって、うひゃっなんて可愛い声を出すものだから。
(悪いのはオレじゃなくて、三橋だよな。ゲンミツに!)

「たっ、田島君・・・」
「なんだぁ?」
「あの、そのっ・・・あぅ・・」
「あー、これ。イヤだね」
「ふぇっ・・・」

三橋が何を言っているのか周りの者にはさっぱりだが、そこはさすが田島。
きちんと会話を成り立たせたうえで、きっぱりと否定する。

普段なら三橋が嫌がることなど間違ってもしない田島だが、今日だけは違った。
本当に彼が嫌がっているようならもちろん止めたが、そうじゃないということはお見通しだ。
ほんのり桜色に染まった頬を見て、にんまりと嬉しそうに笑う。
再度突っつきを開始しようとしたところ、

「いい加減にしろよ、田島」

呆れたような声とともに、その腕をがしっと掴まれた。
伸びてきた手のほうにふいっと視線を向けると、そこには9組の保護者こと泉が立っていた。
田島の視線を受けた泉は腕を解放してやりながら、やれやれと肩をすくめる。

「三橋がやめろって言ってんだから、やめてやれよ」
「えー!?別にいいじゃん。キモチイイんだぜ」
「あー・・・そりゃなぁ・・・」

確かに気持ちよさそうだよなぁとは思う。
そもそも一応止めては見たものの、田島が三橋に対して嫌がることをするはずがない。
暴走しがちな田島を止めるのも自分の役目なのだろうが、今日のなんてまだ可愛いものだ。
なんだかだんだん馬鹿らしくなってきた気がして、小さく溜め息を吐いた。

「だったら、泉も一緒にやればいいじゃん」
「はぁ!?」

田島の言葉に驚いて、思わず三橋のことを見詰めてしまう。
すると彼はいまいちよく分かっていないようで、こてんと小さく首を傾げた。
(うわっ・・・それは反則だろ。三橋)
赤くなった顔を隠すようにしながら反対側にいる田島を見ると、にやっと笑みを浮かべていた。
・・・・うん。偶には流されてみるのも悪くないかもしれない。

「三橋、優しくするからな」
「ふぇ・・・?」

この台詞だけ聞いたらかなり色々誤解されそうだが、残念なことに当の三橋は全く気付いていない。
そしてそれをツッコめるような者も、(非常に残念ながら)ここにはいなかった。
泉は爽やかに微笑みながら、言葉通り優しくそこへと触れる。

「おおっ・・・マジで気持ちいいかも」
「だろっ!オレもオレもー」
「うぇっ・・わわ・・・!?」

田島だけでなく泉もその感触が気に入ってしまったのか、三橋そっちのけできゃっきゃっと騒ぎ出す。
両隣からぷにぷにと頬を突付かれて、三橋はどうしていいかわからず困惑してしまった。
それでも2人が楽しそうなので、まあいいかとも思う。
(2人が笑ってくれれば、オレ。嬉しい)
フヒっと、彼が独特の笑みを浮かべたときだった。

「何してるの、9組コンビ」

怒りを押し殺したような声が聞こえ、3人同時にそこへと顔を向ける。
にっこりと腕くみをして仁王立ちしている野球部裏主将の姿を捉え、
田島と泉の頭にはいつ戻ってきたのかなぁと、緊張感の欠片もないことが過ぎっていた。

ちなみに、3人がいる場所は部室なので、当然他の部員も存在している。
しかし7組トリオと栄口が所用のためここに居らず、彼らに物申せる人間がいなかったのだ。
理由は言わずもがな、である。
微妙に暴走寸前だった田島を、泉が止めに入ったときはホッと胸を撫で下ろしたのだが。
何故か、一緒になってあの状況だ。
こんなところをあのオレ様タレ目(by西広先生)に見付かったら、確実に三橋が危ない。
ほとほと困り果てたところに、頼れる人栄口の登場である。
部室居残り組みの心の平穏は、全て“いい人”の肩にかかっていた。

どうしたらそんなことが出来るのか、栄口は器用に泉と田島だけを睨み付ける。
三橋には、いつもの笑顔を穏やかに浮かべていた。
最早神業である。

「見てわかんねぇの?」
「・・・三橋の頬っぺた突付いてるようにしか」
「そうっ。柔らかくって、マシュマロみてーなんだぜ」

にっと笑いながら、栄口に見せつけるようにちょんちょんと彼の頬を突付く田島に一瞬殺意を覚える。
しかし今ここで殺るのはさすがにマズイので、とりあえずそれは後回しにしておく。
ひくひくと動く眉をなんとか押さえながら、泉のほうへ向き直った。

「泉もだよ」
「オレか?」
「そうだよ。全く、一緒になってなにしてるのさ」

本来こっち側の人間のくせに。
目線だけで告げて、じっと鋭い視線を向ける。
泉はそうだなぁとボソリと呟いて、一瞬何かを考える素振りをみせる。
そしてふっと、唇の端を吊り上げた。

「まっ、偶にはオレもこっち側ってことで」

挑戦的な笑みを浮かべはっきり告げると、泉もぷにぷにっと頬を突付き始める。
三橋はというと「あ」とか「う」とか言葉にならない声を漏らしながら、始終落ち着かない様子できょろきょろとしていた。
今すぐにでも2人を殴り倒して三橋から引き剥がしたい衝動に駆られたが、拳をぎゅっと握って必死に押さえ込む。
(三橋の前、三橋の前だぞ。堪えろ、勇人っ)
頭のなかでぐるぐると繰り返して、三橋に向かってにこっと笑みを浮かべた。

「三橋だって、止めてほしいよね?」
「う?」
「ねっ、三橋」
「えぅ・・えと・・・」

突然話題をふられた三橋は、驚いて軽くパニック状態に陥る。
それでもなんとなくいつもと雰囲気が違ってみえた栄口は、やっぱりいつも通りだし。
ゆっくりでいいよと優しく声を掛けてもらったので、なんとか落ち着いてきた。
うーんと暫く頭を捻ってみて、あっと思い出したように声を上げる。

「あの・・・オレ、んと。甘く、ないよ?」
「「へっ?」」

行き成り何を言い出すのかと、栄口だけでなく泉も間の抜けた声を漏らす。
彼の言動が突飛で掴みにくいのはいつものことだが、これは遥かに予想を上回っている。
栄口と泉がうんうん唸っているなか、田島だけはにこっと満面の笑みを浮かべた。

「んなことないって!!なあ、泉」
「・・・悪いけど、何の話だ?」

どうして今ので分かるんだと、感心半分嫉妬半分で泉が尋ねる。
田島はだからぁと、呆れたように言葉を続けた。

「さっき、オレがマシュマロみたいって言ったじゃん」
「そういや言ってたな」
「んで、自分は甘くないって」
「・・・ああ」

そういうことかと、泉は納得して苦笑を浮かべる。
ちらりと栄口をみると、やはり彼も自分と同じような顔をしていた。

「まあ、三橋は甘そうだけど」
「だろっ!!」
「お、オレ。甘くないよ!?」

頷き合う2人を見て、三橋がきょときょとと視線を彷徨わせる。
すると田島は三橋の頭にポンと手をのせ、楽しそうに笑った。

「なら、試してみっか!」

なっ!と田島の視線を受けて、泉は目を瞬かせる。
だがすぐにその意味に気付くと、にっと小さく微笑み返した。
三橋の頭が動かないように、田島の手の隣に自らの手をのせる。

「じゃ、いっせーのせでな」
「おお」
「いっせーの・・・」
「まっ!?田島っ、泉っ!!!」
「「せっ!!」」

ハッとした栄口が慌てて声を掛けるも、一歩遅かった。

ちゅっと軽い音を立てて。
田島と泉が同時に、その柔らかい頬に唇を寄せた。

呆然となっている栄口と、何が起こったかわからずきょとんとしている三橋。
だがゆっくりそれらが離れていくと、ぶわっと三橋の顔が真っ赤になった。

「あっ、うう!?へっ、うぇ!!?」

茹蛸のようになりながら田島と泉を交互に見詰めてくる三橋の頭を、ぐしゃぐしゃっと優しく撫で回す。
にっこり笑って、2人同時に告げた。


「「ごちそうさま」」



真っ白になっている栄口と、目を見開いたまま固まっている居残り組みと。
ピンク色のオーラを垂れ流している9組の姿を7組トリオが発見するのは。
もう少し、先の話である。












三橋を挟んで両側からちゅっとする構図って萌えませんか?
というコンセプトの話です(笑
やっぱりそれだったら、9組コンビの他にはいないな!と。
水谷と栄口でもいいかなぁとは思ったんですけどね。