マウンドに愛をこめて



それは本当に何の前触れもなく、唐突だった。
パシンと、乾いたよく通る音が辺りへと響く。

「三橋っ、好きだよー」

投げ渡された白球とともに、水谷が大声で叫んでくる。
三橋はしっかりとそれをキャッチしつつも、きょとんとして眼をパチパチと瞬かせた。
視線を、ゆっくりと彼のもとに向ける。
この距離からでも分かる。
水谷はいつものようにふにゃっと笑って、三橋のことを見返していた。
ただそれだけ。それだけのことが酷く嬉しかった。

「おいっ、水谷!練習中に何言ってんだ!?」

ハッとしたような花井の声が、グラウンドの更に遠くから飛んでくる。
他の部員は未だ先のショッキングな出来事から立ち直れていないのか、呆然と立ち尽くしたままで。
水谷はだってーと彼独特の間延びした声を上げながら、にへっと笑った。

「オレ三橋のこと大好きだもーん」

あまりにも当たり前のように言われ、三橋は大きく眼を見開く。
胸がドキドキと、静かに鼓動し始める。

「だから、そう言う事を練習中にっ」
「いいじゃん。減るもんじゃないんだしー」
「減るんだよっ。オレのなかの何かが減っていくんだよ!」
「ふーん。・・・三橋ーっ、好きだぁ」
「あっ、お前またっ・・・」
「オ、オレもっ」

気がついたら、声が勝手に飛び出していて。
花井と水谷が同時に、三橋のことを驚いた顔で見つめてくる。
ぎゅっと胸を押さえながら、三橋は精一杯の声を張り上げた。

「オレもっ、水谷君のこと好き、だよ」
「「っ・・・!!」」

言わなければいけないと思った。
いや、伝えたいと思った。
自分なんかに言われても嫌かもしれない。でも、嬉しかったのだ。
本当に、涙が出るほど嬉しかったから。

三橋が荒くなった呼吸を整えながら水谷を見ると、何故か顔を手で覆い隠して俯いていて。
やっぱり嫌だったんだと不安になったところに。

「三橋ー!!」

自分を呼ぶ声が聞こえてきて、はっと顔を上げた。
最初に眼に映ったのは、いつもの全開の笑顔をした田島。
その隣に泉がいて、栄口がいて、巣山がいて。
いつの間にか全員が、三橋を取り囲むように立っていた。

「オレも、三橋のこと大好きだかんな!ゲンミツに!!」

すぅっと大きく息を吸い込んだ田島が、最大限の音量でそう叫ぶ。
それを皮切りに、グラウンドのあちこちから次々に声が飛んだ。

「オレも好きだからな、三橋」
「オレも、好きだぞ」
「あ、と。オレも好き、です」
「もちろん、オレも大好きだよ。三橋」
「三橋っ、お前へのオレの愛は尽きね・・・がぁ!?」
「はいはい。オレも好きだからね、三橋」
「おっ、お前ら・・・あー、もうっ!!オレも好きだぞ、三橋っ」

皆の声が届くたびに、胸がどうしよもないくらい鳴り響いて。
ついに堪えられなくなった三橋の眼から、ぽたぽたと雫が流れ落ちた。

それは、偶然聞いてしまった心無い一言。
そんなこと言われ慣れていたはずなのに、息が出来なくなるほど苦しくなって。
自分を好きでいてくれる人なんていないと思っていた。
でも、それでいいんだと思っていた。
この苦しみさえ押し隠してしまえば、それでいいんだから。
なのに。

「み、んな・・・オレの、こと・・」

好きだと言ってくれた。
手に入らないと思っていたものが、ここにはあった。

三橋は溢れる涙を、ぐいっと腕で拭う。
ゆっくりと立ち上がって、にこっと笑みを浮かべた。
大切な大切な彼らに。
大好きの気持ちを伝えなければいけないんだから。










いきなり三橋に告白する水谷が書きたくてですね・・・
総受けになりきれていない総受け話ですみませっ(汗
全員文の告白台詞を考えるのが、何気に大変でした・・・・