その手の先
やっとの思いで蹲っている背中を見つけ、胸を撫で下ろすと共にちくりと胸が痛む。
傍に近づくにつれて大きくなる嗚咽に、無性にここから逃げ出したくなった。
どうやって声を掛けよう。
迷ったのは、ほんの一瞬で。
「三橋ー。こんなとこで何してんの?」
結局こうして、いつも通りに振舞うことしかできない。
・・・いや、或いはそうすることが義務付けられているのか。
「水、たに、く・・・」
ゆっくりと振り返り、涙に濡れた瞳が見上げてくる。
また。
ちくりなんてものじゃない。
ギュウギュウと締め付けられるように。
胸が、痛んだ。
イライラする。
何も出来ない自分自身はもちろん。
それ以上に、彼を泣かせている張本人に。
飾らない言葉は、いつだってストレートだ。
何時でも傍にいて、何かあれば大丈夫だよと微笑みかけて。
クールを気取っているあいつが、唯一見せる柔らかい笑顔。
本当は。
今だって、自分で探しにきたかったに決まってる。
それをしなかったのは当然、目の前のあの子の為で。
自分が行けば、余計混乱させるだけだと分かっているんだ。
彼等らしいすれ違い。
だけど、だからどうだというんだ。
「みんな心配してるよー。ねっ、戻ろう?」
「っ・・・・」
嫌だ。と声を出す代わりに。
ぶんぶんと、何度も首を振る。
何がそんなに彼を頑なにさせているのか。
考えなくても分かっていて、嫌気が差す。
「どうして?」
なんて、滑稽な質問だろう。
答えが分かりきっていることを訊いて、それに何の意味があるのか。
本当は、だからここに来たくなかった。
こういう役目だと割り切って。
笑顔のプレッシャーに後押しされて。
まあ、誰とは言わないけど。
「・・・って、オレ。おこ、てる・・・」
いつもなら、理解できないはずの途切れ途切れの言葉。
今日だけは田島並みにすぐに理解してあげられて、嬉しい。
そういうことしておこう。
「大丈夫だよ。誰も怒ってないし、心配してるんだから」
「け、どっ・・・・」
「ほらほら、オレの言うこと信じられないのー?」
「違う、よっ!でも・・・」
縋るように見詰めてくる。
多分次が、彼からの最後の質問。
「ほんと、に?」
ここで嘘だと告げたら、どうするのか。
悲しんで、その先に見るのは誰なのか。
この手が、掴まれることはあるんだろうか。
分かってる。
もしそうなら、嘘なんて何度だって喜んで吐くだろう。
あの手以外に、彼が縋ることがないことくらい。
「ホント、ホント。三橋が心配することなんて何にもないよ」
そう、あいつが愛想つかすなんて。
況してや、嫌いになるなんてありえない。
だから、安心していいんだ。
安心して、隣に立っていていいんだよ。
「水、谷君・・・」
「うんっ。じゃ、一緒に戻ろっか」
いつもと同じにへらと笑って、手を差し出す。
ちょっと戸惑いながらもおずおずと握ってくれた手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
これくらい、させてくれたっていいよね?
冷たいままの手は、いつまでたっても暖かくなんてならないんだから。
ふと思い立って、勢いだけで書き上げました。
なので、場面があやふやすぎに・・・・・
三橋のお相手はご想像にお任せで。
いや、もうあの人しかいないですけども(笑