空を見上げた。蒼い蒼い空だ。
見ているものは同じ。
けれど、映すものは違うと気づいたのは何時だったか。
吐いた溜め息が白く染まって、消えていった。





   利己的狂奏曲






屋上のドアを開ける。
いつもは図書室に直行するけれど、今日はそうしなかった。
何故って?そんなの決まってる。
空が、蒼かったからだ。

「いい自殺日和ですね、先生」

声を掛けると、驚いたように振り向かれる。
おかしいな。気配を消していたつもりはなかったんだけど。
そんなに集中していたんだろうか。ここから、飛び降りることに。
まあ、それもおかしな話だとは思うけどね。

「久藤くんじゃないですか。驚かさないでください」
「すみません。そんなつもりはなかったんですけどね」

苦笑しながら答えると、先生も苦笑を返してくる。
こほんとワザとらしい咳をして、至極真面目な顔を作った。

「それで、何ですって?」
「はい?」
「さっき、自殺がどうとか・・・」
「ああ」

納得して、にこりと笑みを浮かべる。

「いい自殺日和ですねって、言ったんです」
「久藤くん・・・君は」
「ああ、勘違いしないでください」

先生の顔が途端に曇って、僕は続きの言葉を遮った。
心配そうな顔してる。
それが僕のことだ、なんて思うはずがない。
だけど、ちょっとくらい自惚れてみたくもなるんだ。

「ボクは、自殺する気なんてありませんよ」
「久藤く」
「それから」

また、先生の言葉を途中で遮る。
僕は狡い。
自分で言っておいて、否定されるのが怖いから逃げている。
解ってますよ、先生。
貴方が、何を心配しているのかぐらい。

「先生が、自殺するのを止める気もありませんから」
「っ・・・」

先生が息を呑んだのが分かった。
ああ、なんだろう。
妙に愉しい気分になってきた。
すると何故か、先生がじっと、縋るような目を僕に向けてくる。

「そう、ですか・・・そうですよね」
「もしかして、引き止めて欲しかったんですか?」

それはあまりにも意外だ。
でもそう聞くと先生が驚いたようにかっと目を見開いたから・・・
あながち、間違ってもいないのかもしれない。
あれ?もしかして、これは喜ぶべきところなんだろうか。

「べっ、別に私はそんなことこれっぽっちも思ってません!」
「そうですよね、よかった」

その言葉を聞いて、ほっと息を吐く。
ここで安心しては、まるで先生に死んで欲しいみたいだ。
けど、事実そうなんだから仕方がない。
なんだか不思議と、笑いが込み上げてくる。

「・・・久藤くんは、私に死んで欲しいんですか?」

直球で聞かれた問いに、こくりと笑顔で頷く。
伏し目がちに向けられた瞳が妙に色っぽい。
今の状況に全く似つかわしくない、そんなことを考えながら。

「だって、先生」

言葉は勝手に吐き出されていた。
続く言葉を知っているけれど、それが自分の意志とは関係なく口から飛び出していく。
そんな、奇妙な感覚。

「貴方が死んでしまえば、もう誰の手にも入らないでしょう?」
「なっ・・・・」
「だから、見届けてあげます。ボクが」

誰かのものになってしまうくらいだったら、そのほうがずっといい。
それはそう。
僕自身のものにさえ、なって欲しくはないんですよ。先生。

















く・・・久藤くんファンの方々すみませっ(滝汗
これでも久藤くん好きなんです。愛故なんです・・・
この作品で甘いのは・・・無理っぽいですよ・・・