響くのは、ぞくりとするほど甘い嬌声。
ぎしぎしと軋むベッドが、どこか気恥ずかしかった。

「んっ、はぁっ・・・ら、い・・・」

物欲しげな瞳で、彼がじっと見つめてくる。
だがあえてそれを無視するように、ゆるゆると彼自身を扱く。
その手の動きに合わせるように、とろりと、蜜が零れ落ちた。

「やっ、ラっイ・・・」

小さく身体を震わせて、彼がふるふると首を振る。
情欲のました瞳に、知らずごくりと喉を鳴らしていた。

「もっ、はや・・・くっ」
「アルっ・・・!?」

焦れったい刺激に堪えられなくなったのか、彼が強引に腕を引いてくる。
驚いてバランスを崩すと、その勢いで触れるだけのキスをされた。
2人分の熱っぽい吐息が、微かに漏れて混じりあう。

「が、まん・・・できっ、ない・・・から」

僅かに擦れた、けれどはっきりとした凛とした声。
いつもと同じようで確実に違うそれに、胸が高鳴るのを感じる。
こんな彼を見ることができるのは自分だけなのだと思うと、妙な高揚感があった。

「ライっ・・・て、がぁっ・・・」
「あっ、悪い・・・」

意識が違うほうに向いていて、思わず止めてしまった手を咎めるように名前を呼ばれる。
しかし何故か、それを彼自身がぎゅっと腕を掴んで遮った。
どうしたのかと思って彼を見て、ドキリとする。
濡れた瞳が、誘うように揺れていた。

「もっ・・・いれ、て。ライの、ほしっ・・・」

懇願するように言われ、ぷちりと理性が切れる。
こんな可愛いお願いを突っぱねられるほど、まだ大人じゃなかった。

「アルバっ・・・」
「んぁっ、らいっ・・・ああっ・・・」

ろくに解してもいないそこに、ぐいぐいと押し入っていく。
苦しそうな彼を宥めるように、優しくキスを送った。
すると小さく、にこりと笑いかけられる。

「へ、き・・・だよ。んっ・・・ライ、だから・・・はっん・・・」
「アルバ・・・」

ああもう。どうして彼はこんなにも可愛いらしいんだろうか。
本当に、どこまで自身を惚れさせれば気が済むのだろう。

「好きだ・・・好きだぜ、アルバ・・・」
「っんあ・・・おいら、もっ・・・好き、だよっ・・・ライ、」

こうして夜は更けていく。だが彼らの夜は、まだ始まったばかりだ。  







   イジワルなキミ







真っ白なシーツが、緩やかな風になびいている。
今日も澄み渡るような、気持ちのよい晴天だった。
きっと取り込むときには、暖かいお日さまの匂いがするのだろう。
綺麗に干された洗濯物を満足そうに見上げるアルバに、そんなことを思った。

「アルバ」
「あっ、ライ!」

呼び掛けると、満面の笑みで振り返ってくる。
ライからも自然と笑みが零れ、アルバのところまで歩み寄って行った。
さすがに朝起きてすぐは辛そうだったが、彼を見る限り平気そうでほっとする。
本当は辛い思いなどさせたくないのだが、どうにも歯止めがきかなくて困るのだ。
若いからなぁなんて、変に年寄り地味たことが頭を過った。

「ライ?どうかした」
「あっ、ああ」

思わず苦笑を漏らしたライに、アルバが不思議そうに小首を傾げる。
いちいち動作が可愛いんだよなぁなんて思う自分は、もう末期であろうか。

「大丈夫かと思ってさ」
「え?なにが」
「いやさ、だから・・・その」

内容が内容だけに、すんなりと言葉が出てこない。
真っ直ぐな瞳を向けられていれば尚更だ。
けれどここまで言って黙るわけにもいかず、ライは照れくさそうな笑みを浮かべた。

「身体、は・・・大丈夫か?」
「かっ、らだ・・・?」
「ああ、その・・・昨日さ、ちょっと無理しちまったから」
「なっ、ばっっ・・・」

かぁっと、アルバの顔が途端に朱に染まる。
あだのうだの、言葉にすらならない言葉を漏らしながら、わたわたと視線を泳がせだす始末だ。
まるで昼の顔と夜の顔だな。
アルバの慌てっぷりを見て、ライは小さく笑みを浮かべる。
あれだけ大胆なことをしておきながら、今はこれだけのことで真っ赤になって。
まあ、それだけを告げる自分も照れているのだから、その辺りはおあいこか。
だが少なくとも、自分は昼も夜も変わりないと思う。だってあれは、

(人格、変わりすぎだろ・・・)

思い出して、ライの顔もアルバに負けず劣らず紅く染まる。
ちらりと彼の顔を確認すると、恥ずかしさからか目元が潤んでいた。
うっと、ライが息を呑む。
なんだあれ!!?めちゃくちゃ可愛いんですけど!?

「へ、平気・・・だよ」
「へ?」

思わず浸っていたライに、アルバがおずおずと伝えてくる。
恐らく自分はいま、とんでもない阿呆面を晒しているのではないか。
けれどそんなライには気づいていないのか、アルバは朱に染まった顔を隠すように俯いた。

「朝はその・・・ちょっと痛かったけど」
「わ、悪い」
「ちがっ、いいんだ!」
「あ、アルバ?」

罰が悪そうに苦笑したライに、アルバが焦ったように視線をあげる。
わけがわからず目を瞬かせると、彼が恥ずかしそうな微笑を浮かべた。

「あの・・・だって、別にライが悪いわけじゃないし。それに・・・」
「それに?」
「え、えっとさ。そのね」

アルバが珍しく吃ったかと思ったら、次の瞬間には紅らんだ目元で柔らかく微笑んでいて。

「おいらも・・・ライにああしてもらいたいって、思ってるから、ね?」

なんて、爆弾発言をかましてくれた。
かあっと、ライは身体中が一気に熱くなるのを感じる。それはもう、湯気でも出そうな勢いだ。
俯いて小さく深呼吸を繰り返し、漸く落ち着いたところでアルバの不思議そうな気配がして。
ライは幾分余裕の出てきた頭で、ゆっくりと視線をアルバに向けた。

「なら、今日もいいのか?」
「う、ん・・・?」

こくりと頷きかけたアルバの動作がピタリと止まる。
大きな目をぱちくりとさせて、見る見るその表情が変わっていく。

「えっ、えぇ!?あの、えっ!?」
「ははっ。アルバ慌てすぎ」
「ふぇ!?」

急にばたばたと挙動不審になったアルバを、ライがからからと面白そうに笑う。
もちろんライは、本気だったわけではない。
それはまあ・・・やりたくないと言ったら嘘になるが、アルバに負担をかけてまでしようとは思わない。
ただ少し、余りにも彼が嬉しいことを言ってくれたものだから、からかってみたくなったのだ。
ライはすっと笑いを収めて、アルバのことを見つめた。

「イヤなのか?」
「いっ、イヤっていうか・・・だって昨日も、その、」
「アルバ?」
「〜〜っ」

恥ずかしさの頂点に達したのか、アルバは無意味に口をぱくぱくとさせて。
ライは我慢できないといったように、ぶはっと吹き出した。

「くっ、あははははっ!」
「ら、ライ・・・?」

突然笑い出したライに少し余裕を取り戻したのか、アルバが怪訝そうに声をかけてくる。
ライはなんとか笑いを引っ込め、ひらひらと片手を振った。

「わ、悪い。アルバ。冗談だよ」
「へ?へっ、じょ・・・!?」
「冗談だ」

至極真面目に告げたつもりだが、若干笑いで顔が引きつっていて。
アルバは暫し、呆然とした表情でライのことを見つめる。そしてそれはもう、素晴らしい叫び声が響き渡った。

「ライーっっ!!!」
「わわっ、ごめん。悪かったってば」
「ばかっ。ばか、ばか!」

怒りのせいか、はたまた恥ずかしさのせいか。
真っ赤になったアルバが、ぽかぽかとライのことを殴ってくる。
ちょっと、からかいすぎただろうか。
ライは苦笑を浮かべつつ、アルバの振り下ろされた手を受け止めた。

「アルバ、ごめんな」
「・・・もういいよ」

むっとしたように視線を背けたアルバに、ライは小さく笑う。
もしかしたら思っている以上に、自分は彼に愛されているのかもしれない。
ちょっとだけ、自惚れてみてもいいだろうか。
ライはぐっと、掴んだ腕を引き寄せた。

「う、わっ!?」
「本当は、まるっきり嘘ってわけでもないんだけど」

急に引っ張られてバランスを崩したアルバに、にっこりと笑いかける。
耳元に、唇を寄せた。

「アルバに無理させたくないしさ」
「ら、い・・・」
「だから、今日はこれで我慢しとく」

身体を離し、意地の悪い笑みを張り付けて、アルバの顔を覗き込む。
ゆっくりと近づいてくるライのことを、アルバはどうすることも出来ずに見つめていた。
そっと、唇同士が触れ合う。

「ちょ、ラっ・・・んぅ・・・」

少しだけ深めに唇を押し付けて、ライはにっと悪戯っぽく笑った。
ぼわっと、アルバの顔が真っ赤に染まる。

「ら、ららっ・・・!」
「さっ、仕事に戻るか」

ぐらぐらしているアルバの手を引いて、キッチンへと向かう。
途中彼がぎゅっと握り返してくれたのを感じ、ライは幸せそうに微笑んだ。













初めは最初の部分は2行程度で終わらせるハズだったんです・・・!
いや、書いてるうちに楽しくなっちゃいまして(笑
ですがもともと裏にする気はなかったので、描写は温めかと。
ただ、アルバは夜になると積極的っぽいよね!ということが言いたかっ・・・げふんげふん。
えー、次はバリバリの裏をライが鬼畜で書いてみたいです(ぇ