きもだめし
木々に囲まれた小さな村に、そこににつかわしくないくらい大勢の人が集まっていた。
その村には、聖女と呼ばれる少女が暮らしている。その聖女に会いたいと、連日連夜いろんなやからがつめかけてくるのだ。そこには毎回長蛇の列が作られ、聖女に会えるのを今か今かと待ち望んでいた。だが今現在は、人は並んでいない。
受付時間が終わったのか、なごやかな話し声が聞こえてきた。
「アメル、お疲れ様」
「ううん、みんなが手伝ってくれたから」
話し声の主は、聖女ことアメルとその仲間達だ。
「けっ・・・、何もしてねぇ奴もいるけどな」
「おい、リューグ!!」
いつになく不機嫌そうなリューグを、いつも通りにロッカがとめに入る。
それが気に食わないのか、リューグはキッと鋭い眼光を向けた。
「うるせぇ!!いつもいつも真面目面しやがって」
「なっ!?お前はいつもそうやって・・・っ」
売り言葉に買い言葉。
いつも通りに喧嘩が始まってしまった2人を、周りは呆れたように見遣っていた。
「はぁ・・・、リューグ達もこりないよな」
「まったくだな」
「まぁ、てきとうにやらせときなよ」
暫く止めることも、口をはさむこともせずに見守っていると、唐突にアメルが口を開く。
これも、いつも通りのパターンである。
「ねぇ、みんな。肝試しをしませんか?」
その台詞に、その場にいた全員がいっせいにアメルに注目した。
もちろん、ケンカをしていたあの2人も。
「なんだって、アメル?」
そんな中、一番最初に口を開いたのはマグナだった。
「だから、みんなで肝試しをやりたいなって」
「なんでまた、いきなり?」
「私、噂で聞いたんですけど、あの森って出るらしいんです」
「へっ?」
アメルの「出る」という言葉に、顔を引きつらせた者が数人、心をときめかせた者が数人。
しかし、アメルは気にせずにどんどん話を進めていく。
「だから、せっかくだからみんなでやりましょう?きっと、楽しいですから!!」
なにがせっかくなのかはわからないが、アメルは聖女の笑顔で、「ねっ、ねっ」と周りの者に詰め寄る。
マグナは考えるように首を捻るが、やがてぱあっと明るい笑顔を浮かべた。
「う〜ん・・・。でも、おもしろそうだよね。みんなで、やってみよっか!?」
マグナのこの言葉を筆頭に、次々と賛成の声が部屋中に響きわたる。
怖がりの者数人も、マグナ&アメルの説得によりしぶしぶ了解した。
しかし、和やかな雰囲気のなか行なわれていたこの話し合いを、ぶち壊す声がとびこんでくる。
「だれが、そんな子供じみたことするかよ」
「また、お前は!!」
やはり、というべきか、リューグは肝試しに反対した。
このまま、また先ほどと同じように、ケンカになってしまうのかと思われたが、意外な人物のおかげで、それはくいとめられた。
「なんだ、リューグ。君は、幽霊が怖いのか?」
「なっ!!そんなわけねぇだろ」
意外にも、リューグの次に反対するかと思われた人ネスティが、リューグの説得にかかったのである。
「それならば、問題ないだろう」
「俺は、そういうことを言ってんじゃねぇ。子供じみてるって言ってんだよ」
「それは、肝試しに行きたくない言い訳か?」
「――っ!!行ってやろうじゃねぇか、肝試し!!」
こうして、ネスティの説得もとい挑発にまんまとハマったリューグは、肝試しに参加することとなった。
くじでチームと順番を決めた結果、トップバッターはネスティとマグナが務めることとなる。
そしてちょうど真夜中の2時、肝試し大会は開始され、トップバッターの2人が出発した。
「マグナ、足元が暗いから気をつけるんだぞ」
「うん、わかっ・・・うわぁっ!!」
ネスティがマグナに注意をうながした瞬間、大きな音と共にマグナの叫び声が森じゅうに響き渡る。
暗闇にもかかわらず、ネスティは正確にマグナのほうを向き、勢いよく口を開いた。
「君はバカか!?今、注意したばかりだろう!!」
「ううっ・・・・、ごめん」
ネスティに怒鳴られ、マグナはみるみる涙目になっていく。
そんなマグナにやれやれと浅い溜め息を吐き、ネスティは優しく笑いかけた。
そして、自分の手をそっとマグナに差し出す。
「まったく、君は。ほら・・・」
「へっ?」
しかし、マグナはせっかくネスティが差し出してくれた手をどうするべきかわからず、ぽけっと眺めている。
ネスティはマグナの態度に半眼で呻くと、みずからマグナの手をとり歩き始めた。
「行くぞ、マグナ」
「うあぁ・・・ちょっ・・」
足早に歩くネスティに引きずられるようにして、マグナは歩を進める。
と、突然マグナがネスティを呼び止めた。
その声にネスティが足を止め、マグナのほうを振り返る。すると、なぜか満面の笑みのマグナがいた。
「ありがとう、ネス。俺、ネスのそういうとこ好きだな、へへ・・・」
「・・・・・・ほら、行くぞ」
「えっ、ネス!?まっ、まって!!」
ネスティの態度に不安になったマグナだったが、実は耳まで真っ赤であったことがわかると、再び満面の笑みに戻る。
そして、ネスティとつないでいる手を、思いきり強く握り締めた。
ネスティ達が出発してから10分ほどたったころ、2組目、ロッカとリューグが森の中へと入っていった。
「ったく、なんで俺がこんなこと。ネスティの野郎・・・」
「まぁまぁ。たまにはいいだろ、リューグ」
「よくねぇ!!」
ネスティにハメられたということに今頃気づいたリューグは、不機嫌大爆発でロッカに当り散らしていた。
ロッカはといえば、そんなリューグにやれやれといった感じで、大きな溜め息を吐く。
そんな2人をしばしのあいだ沈黙が包み、その沈黙の中、先に話し出したのは意外にもリューグのほうだった。
「悪かったな、兄貴に当たっちまって」
「リューグ?」
「兄貴に当たるつもりはなかったんだけどよ、つい・・・」
そう言って、申し訳なさそうにしゅんとなったリューグを見て思わずふきだしそうになる。
しかし慌てて口元を押さえ、ロッカがにこりと微笑んだ。
「そんなこと気にしてたのか。別に、いつもの事だろ」
「いつもの事って・・・」
俺はいつもこんなんじゃねぇ、と口を尖らせながらリューグは続ける。
2人の時にしか見せてくれない弟らしい一面に愛しさを感じ、ロッカはそっとかわいいな、なんて思いをめぐらせる。
優しく、リューグを見つめた。
「怒ることないだろ。それでも好きだから、一緒にいるんだから」
「なっっ!?」
ロッカの急な告白に、リューグはどうしたらよいかわからずその場で固まってしまう。
ロッカはリューグの様子を気にするふうもなく、そのまま喋り続ける。
「ってことで、手でもつながないか?」
「ばっバカか!!誰がそんなこと」
リューグはハッと我に返って、プイと顔を背ける。
ロッカの提案をあっけなく却下したリューグは、1人でスタスタと歩いていってしまった。
しかし、しばらくして後ろを振り返ると、そこには目に見えて落ち込んでいるロッカの姿を見つける。
そんなロッカに苛立ちを覚えつつも、進行方向を変え、彼のほうへと歩き出した。
「たっく、このクソ兄貴が」
俯いていたところに、リューグの不機嫌な声が聞こえたかと思ったら、なにか強い力に引っ張られる。
ロッカがそれがリューグだと気づくまでに、ゆうに数十秒はかかっただろう。
「リュッ、リューグ!?」
「うるせぇ、何も言うな!!」
リューグは、しっかりとロッカの手を握ると、足早に歩き始めた。ロッカからは、リューグの後姿しか見えなかったが、それでもリューグが赤くなっているのがはっきりとわかる。
「ありがと、リューグ」
聞こえるか、聞こえないかのギリギリの声でそういうと、つないでいる手が離れてしまわないように、ロッカも足早に歩き始めた。
こうして、さまざまなドラマをうんで終わりを告げた肝試し大会だったが、誰も知ることのない真実が隠されていた――
後日談―
「今回の肝試しは、大成功だったみたいですね」
「ああ、君のおかげだよ。アメル」
「でも、ネスティさんがリューグを説得してくれたおかげで助かりました」
「別に、かまわんさ」
「あっ、2人とも!!そろそろ、みんなを起こさないと」
「そうだな」
「そうだね」
まだ皆が寝静まっているころ、そんな会話が森の中を飛び交っていた。
ネスティに、君はバカかと言わせたくて書き始めた話です。
最後がオチてないのはご愛嬌で(笑
初めてネスマグ書きましたが、マグナ受けもいいですね。
可愛らしくなってるといいんですが。
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