一面見渡す限りの青い空で、体に心地よい風が吹いていた。
穏やかな日差しが降りそそぐある日の午後。
マグナとリューグの2人は、街中へとくりだして来ていた。
「たっく、なんで俺がこんなとこ来なくちゃいけないんだよ」
リューグの不機嫌そうな声が、辺りへと響き渡る。
その一歩先を、軽快なリズムで歩いていたマグナが、その足を止めた。
後ろを振り返ると、ムスッとした表情を向ける。
「なんだよ!!たまには付き合ってくれたっていいじゃないか」
その様子にやれやれといった感じのリューグが、苦笑まじりの返事を返す。
「無理やり引っ張ってきた奴が言う台詞かよ・・・ったく。あの野郎が休めなんて、どういう風の吹き回しだとは思うがな」
「あっ、それは俺も思う。なんでだろうなー」
そもそもなぜ2人がこんな所にいるかと言うと、その理由は数時間前までさかのぼる。
休日の過ごし方
「えぇー!!!休みをくれるって・・・ネスが?」
まだ朝も早い時間帯にもかかわらず、マグナが大声を上げた。
そんなマグナを、すぐにネスティがたしなめる。
「うるさいぞ、マグナ。だいたい、僕が休みをあげたらおかしいか?」
「う゛っ・・・」
ネスティのあまりの迫力に、思わず言葉が詰まる。
だが気を取り直して、先ほどよりも小声で、ネスティに話しかけた。
「おっ、おかしくはないけどさ。ほら、珍しいから!!」
「ほー、珍しいねぇ・・・」
その瞬間、ネスティから不穏な空気を感じ取ったマグナは、慌てて話題を変える。
「あっ、あっ、あの!!でも、ほら仕事はいいの?」
「ああ、それなら問題はない。今日はたいしたものもないしな」
慌てて話題を変えたマグナの態度に、ネスティの眉がピクッと動いた気がした。
しかし、それには気づかなかったふりをして、どうやら本当に休みをくれるらしいことに、マグナは素直に喜ぶ。
「休みなんて久々だな〜、何しよう・・・・」
「うるせえなぁ。何を朝っぱらから騒いでやがんだよ」
飛び上がって喜んでいたマグナのもとに、今起きてきたらしいリューグが話しかけてきた。
マグナはその声に反応すると、声のした方へと顔を向ける。
「リューグ・・・。そっか、リューグがいたんだ」
リューグの顔を見るなり、何かを思いついたらしいマグナが、怖いくらいの笑顔を浮かべた。
そして、そのままずいずいとリューグに詰め寄っていく。
「なっ、なんだよ、マグナ・・・」
詰め寄ってくるマグナに嫌な予感を感じたリューグは、一歩一歩後ずさる。
しかし、どんどん自分の方へと近づいてくるマグナから逃れることは出来ずに、腕をがしっと捕まれてしまう。
マグナは無邪気な笑顔を見せると、リューグの顔へと自分の顔を近づける。
「遊びに行こう、リューグ!!」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
かなりの至近距離で言われたその台詞に返事をするまでに、かなりの時間を要した。
リューグは、しばし困惑した表情を浮かべる。
この状況をなんとかしてほしくて、マグナの後ろでクスクス笑っていたネスティへと、視線を送った。
その視線に気が付いたのか、ネスティがリューグからマグナを引っ張りはがす。
そして、文句を言おうとしたマグナの口を塞ぎ、状況説明を始めた。
「最近仕事が忙しくて、なかなか休ませてやれなかっただろう。それで、今日1日を休みにしたんだが・・・」
「で、それがいったいなんなんだよ」
自分にはまったく関係ない、いかにもそう言いたげな表情だ。
そんなリューグに苦笑しつつ、ネスティが口を開こうとした。が、いつネスティから逃れたのか、マグナが一歩早く声を上げる。
「だから、俺と遊びに行こうよ!!」
「・・・そーいうことか」
やっと納得したのか、リューグがそう呟く。
しかし、納得したからといって、それにやすやす付き合うほどお人好しでもなかった。
「なんで俺がお前のお遊びに付き合わなきゃ・・・うわぁっ」
「ほらほら。いいから、いいから」
マグナは文句を言っていたリューグの腕を無理やり引っ張っていくと、そのまま強制的に外へと連れ出したのだった。
* * * * *
そして、今現在に至る。
「別に何だっていいさ。それより、これからどうすんだ?」
マグナの質問にそっけなく答えると、大きな欠伸をしながら、さも面倒くさそうに彼に尋ねた。
「リューグ〜、せっかくのデートなんだからもっと楽しもうよ」
困ったような、呆れたような表情を浮かべながら、マグナが返事をする。
しかし、なぜかその言葉を聞いた途端、リューグの顔が赤へと染まっていく。
一体どうしたのかと、不思議に思ったマグナが、出来るだけリューグを刺激しないよう、優しく問いかけた。
「あの、リューグ・・・?どうかした?」
「っ、なんでもねぇ!!さっさと行くぞ」
リューグは小さく舌打ちをすると、ぶっきらぼうに答える。
自分でどこに行くのかと聞いたことも忘れ、足早にスタスタと歩き出した。
マグナは慌ててリューグの後を追いかけると、遠慮がちに彼の顔を覗き込む。
「俺、なんか変なこと言ったかな?」
「・・・・お前なぁ、恥ずかしげもなくデートとかいうなよ」
立ち止まったリューグは、マグナから顔を背けながらボソッと呟く。
それでピンときたマグナは、おかしそうに笑い声を上げた。
なんだかそれが気に入らないリューグは、マグナの頭へと拳を振り上げる。
「なにを笑ってやがんだっ!!」
「〜〜っっ・・・・。あはは、ごめんごめん」
顔は笑っていたが、その目には涙が溜まっていて。
リューグはそんなマグナと一瞬目を合わせたが、すぐに顔を背けてしまう。
その顔は、先ほどにもまして赤かった。
(かわいいなぁ・・・)
声に出しこそしないものの、マグナはそう思いながら忍び笑う。
そんなことを知ってか知らずか、リューグはなかなかマグナと顔を合わせようとしない。
そんなリューグを見かねて、マグナが彼の手を取り、自分の方へと引き寄せた。
「さっ、行こっか」
屈託のない笑顔をリューグに向けると、そのままゆっくりと歩き始める。
リューグはそれに返事を返さなかったが、かわりにマグナの手をしっかりと握りしめた。
* * * * * *
青かった空は朱色に染まり、辺りを薄く照らし始めている。
人通りが多かった街中は格段に人が減り、たくさんの子供たちが家路へと向かっていた。
「楽しかったねー、リューグ」
「別に」
嬉しそうにリューグの顔を覗き込むマグナに、ピシャリと言い放つ。
わかってはいるが、こんなときくらい素直になって欲しい。マグナの切実な願いだ。
2人はあれから一通りのデート気分を満喫し、そろそろ家に戻ろうとしていた。
マグナは貴重な休みを満喫できたと思っていたが、リューグはなにぶん態度がああなので、本当に楽しめたかどうかが気がかりだった。
マグナがそんなことを考えていると、リューグが突然立ち止まる。
「危ない・・・・」
そう呟いたかと思うと、そのまま走り出す。
マグナは驚いてリューグに向かって必死に声をかけたが、それが聞こえていないのか、かまわず走り続ける。
「リューグっ!!!」
マグナが叫んだ瞬間、いや、叫んだのと同時に、リューグが車道へと飛び出す。
そのまま何かを抱えそこから移動すると、すぐ後ろから車が走り去った。
「――っ」
通りへと移動したリューグが、ほんの一瞬顔をしかめる。
しかしすぐに普段どおりの顔に戻ると、抱えてきたものを、そっとその場へと下ろした。
リューグが抱えてきたもの、それはまだ4歳程度の小さな女の子だった。
リューグは、誤って車道にいってしまったのであろうその子を見つけ、慌てて助けに行ったのだ。
女の子は下ろされた場所へとしゃがみ込むと、うずくまって泣き声を上げる。
それを見たリューグが、どうしようかとうろたえていると、すぐにマグナがやってきて、女の子をあやし始めた。
リューグがその様子を感心したように見ていると、やがてその女の子の母親らしき人がやってくる。
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
泣きはらした顔でそう言う女の子に、リューグは優しく微笑むと、軽く手を振った。
「いいなぁ・・・」
女の子に向けられた笑顔を羨ましそうに見つめながら、マグナがボソッと呟く。
それに気が付いたリューグが、怪訝そうな顔を向けた。
「なにが、いいんだよ」
「えっ、あっ・・・なんでもないって」
「へー・・・・・」
まさか聞かれているとは思わなかったマグナは、乾いた笑い声を上げる。
明らかにおかしいその様子に、リューグが疑惑の目を向けた。
まさか、自分にもあんなふうに笑ってほしいなんて言える筈もなく、マグナは慌てて話題を変える。
「そっ、それにしてもさ、女の子無事でよかったよな」」
「んっ、ああ、そうだな」
「リューグもお疲れ。それじゃ、帰ろっか」
「あっ・・ああ」
マグナが帰ろう、と言ったその時リューグが渋い顔になった。ような気が、マグナはした。
しかし今はさして変わった様子もなく、至って普段どおりだ。
なので、自分の気のせいだと思い直し、歩き始める。だが、やはりなにかが引っかかった。
「リューグ!!」
「なっ、なんだよっ!?」
なぜか自分の後ろを歩いていたリューグを振り返って確認すると、かなり驚いたようで、顔が引きつっている。
そして、どことなく足を庇っているようにも見えた。
(まさか・・・!?)
そこで先ほど女の子を助けたときに、一瞬だが、リューグが顔をしかめていたことを思い出す。
あのときに、足を痛めたんじゃないか。
マグナはそう思ったらいてもたってもいられず、リューグに詰め寄った。
「リューグ、足痛めたんだろ!!」
「なっ、誰が!!そんな訳ないだろ」
明らかに動揺しているリューグに、マグナは彼が足を痛めていることを確信する。
しかし、そこはリューグなので、マグナの言うことを素直に聞くはずもない。
意地でも白状させようとするマグナを振り払うと、その足で歩き始めた。
リューグのその態度に、マグナも堪忍袋の緒が切れる。
「いい加減、たまには素直になれよっ!!!」
「うわぁっ!!」
痛めた足ではそんなに早く歩けるわけもなく、マグナはいとも簡単に追いつくと、彼のことをそのまま自分の前で抱きかかえた。
リューグの腰の辺りを手で支え、体勢を立て直す。
いわゆる、お姫様抱っこの状態だ。
「ちょっ・・てめっ!!さっさとおろせっ!!!」
「いやだ。それより暴れるなって」
「おいこらっ、マグナ!!」
この体勢がよほど嫌なのか、リューグはマグナに向かって叫び続ける。
だが、マグナは相当頭にきているらしく、リューグに冷ややかな笑みを送った。
「別に騒いでてもいいけど、ここ外だってわかってるか?」
「そっ・・・・」
途端に、リューグがおとなしくなる。
いくら人通りが少ない時間帯とはいえ、まだちらほらと人影はあった。
気が付けば、ほとんどの人がリューグ達のことをちらちらと見ている。
「そうやって、最初からおとなしくしてなよ」
マグナは頬を真っ赤に染めながら俯いたリューグを見ながら、心底楽しそうにそう言った。
* * * * *
「うっわぁー、やっぱりだいぶ腫れてるよ」
「そんなもんなんでもねぇ」
リューグの足の具合を見ながら、マグナが話しかける。
リューグは不満そうな顔で、ぶっきらぼうに返事を返した。
そんなリューグに冷や汗をかきつつも、マグナはおずおずと尋ねる。
「えっと・・・・、やっぱり怒ってる?」
「当たり前だ!!」
半ば予想通りの答えが返ってきて、マグナは苦笑を浮かべた。
あれから無事家にたどりついたはよかったものの、お姫様抱っこなんかで帰ってきたものだから、みんなにかなり冷やかされたのだ。そして、やっとの思いでこの部屋へと逃れてきたものだから、先ほどからリューグの機嫌が最悪なのだ。
(うーん、どうしよう)
まずはリューグの機嫌取りより、足の手当てが先だと思い立ったマグナは、フッと足へと目線を送る。
しかし、そのまま手当てをする訳でもなく、ただ足の腫れをじっと見つめていた。
かと思うと、マグナはおもむろにその場所へと口付ける。
「〜〜っ!!?」
足に唇が触れた瞬間、リューグが声にならない声を上げた。
だが、マグナは気にするふうもなく、さらにその行為をエスカレートさせていく。
「おっ・・・い・・・・マグっ・・ナ」
はじめは触れるだけだったその場所へと、丁寧に舌を這わせる。
その度に、ぴちゃぴちゃという淫らな音が、室内へと響いた。
「んっ・・はぁっ・・・。いっ・・・つ」
足を這っていた舌が、急にその動きを止める。と、マグナは突然、そこを唇で強く吸い上げた。
それと同時に、リューグが悲鳴にも似た声を漏らす。
そこには、赤い痕がくっきりと残った。
腫れた足に手で優しく触れながら、マグナがポツリポツリと話し出す。
「ごめん・・・・。ずっとそばにいたのに、すぐ気づいてあげられなくて・・・・・」
今にも泣き出しそうなほど、マグナはひどく落ち込んでいて。
そんなマグナを一喝するかのように、リューグが大声を上げた。
「こんなもんたいした怪我じゃねぇ!!」
マグナは突然の大声に驚き、リューグの顔を見上げた。
「この足は、俺の気が抜けてたせいだ。マグナが気にすることじゃねぇ」
「リューグ・・・」
めずらしく優しい口調のリューグに、マグナは思わず感動する。
リューグはマグナと合わせていた目を背けると、話しにくそうに俯いた。
「えっとよ、俺あんまり素直じゃないし、憎まれ口ばっかりするけど・・・・、マグナにはいつも感謝してんだぜ?」
俯かせた顔を上げ、マグナへと優しく微笑む。
その顔はまさに、マグナが自分に向けて欲しいと願った、あの笑顔だった。
「ありがと、リューグ」
マグナは力強くリューグを抱きしめると、本当に泣き出すんじゃないかという声を上げる。
「マグナ・・・」
リューグは素直にマグナの腕に抱かれながら、そっと彼の背中へと腕を回した。
これからは少しくらい素直になるのもいいかなと、マグナの胸の中で静かに思いながら。
兎に角、お姫様抱っこをさせたかっただけです。
お姫様抱っこで照れるリューグは可愛いだろうなと。
コレ書いててふと思ったんですけど、やっぱりマグリュってマイナーなんでしょうか?
書いてる本人は至って楽しんでるんですが(笑
|