懐かしい、夢を見た。
あの頃はただ、必死だった。
置いていかれるのがイヤで、何時だってその背中を追いかけて。
無茶をする姿を見てられなくて、何時だって叫んでた。
いまじゃ考えられないその光景がなんだか気恥ずかしい気がして、でも少しだけ嬉しくもあった。




   おとうとのとっけん




昔と変わらない、いやそれ以上に甘くなった声に名前を呼ばれる。
ゆさゆさと身体を揺さ振られる気配がして、リューグは薄っすらと眼を開けた。

「んっ・・・あ、にき?」
「お早う、リューグ」

陽の光とともに、にこりと笑うロッカが眼に入る。
眩しいそれに眼を細めながら、のっそりと身を起こす。
ごしごしと目元を擦ると、ロッカが小さく笑い声を上げた。

「どうしたの?まだ眠い?」
「んっ・・・」

こくりとリューグが微かに頷くと、彼の笑いが大きくなる。
何故笑われているのかはさっぱり分からないが、別段それが嫌なわけではなかった。
むしろ耳に心地よくて、もっと聞いていたいと、そんなふうにさえ思う。
リューグは起きぬけのとろんとした眼で、ロッカのことを見上げた。

あまりにもあどけないその表情に、彼の頬に朱色が差し込む。
笑みを苦笑に変えて、ぽすんとリューグの頭に手を乗せた。

「なんか、小さい頃に戻ったみたいだよ?」
「・・・んなこと、ない」

そう否定はしてみたものの、自分でも何かおかしいとは思っていた。
きっと、そう。あんな夢を見たせいかもしれない。
昔は追いかけているだけだったのに、今はそうじゃなくて。
でも、知っているんだ。
過去も現在も、それからきっと未来だって――――変わらず兄貴は優しいってこと。
わしゃわしゃと頭をかき回される感触が気持ちよくて、リューグの瞼がだんだんと閉じられていく。

「ほら、リューグ。眠っちゃダメだってば」
「んー・・・」
「もう・・・起きて、リューグ」

それを見てか、ロッカが少し困ったように呼び掛けてくる。
リューグはそれが自分がなかなか起きないせいだと思っていたが。
実は、これ以上こんな無防備な姿が目の前に晒されていたら、
理性がもちそうにないなぁとか考えていたりしていたロッカである。

そんなこととは露にも知らず、リューグはぼんやりとした頭で考えていた。
小さい頃はよく愚図って、こんな風になかなかベッドから起き上がれないことがあった。
そんなときは、どうしていたっけ?
当時の記憶を引っ張り上げて、じっとロッカのことを見上げる。
―――ああ、そっか、

「なぁ、抱き着いてもいいか?」
「だっ!!?」

普段のリューグからは考えられない台詞がさらりと飛び出して、ロッカは思わず絶句する。
確かにいつもと様子が違っていたが、まさかこんなことを言われようとは。
半ば呆然としているロッカなどお構いなしに、リューグがぎゅっと腕を回してきた。

「うわっ・・・わわ・・」

リューグが抱きついた瞬間、ロッカが慌てたような声を上げたが、そんなことは特に気にならず。
ぎゅうっと抱き締める腕に、力を籠めた。
安心する匂いと、温かな体温と。
起きられない朝も、眠れぬ夜も、いつもこうしてもらっていた。

「まったく、リューグは」

仕方ないなぁと呟いて、優しく微笑みながらロッカもリューグの身体を抱き返してくる。
どんな時だって、最終的にはこうしてくれる彼が大好きで。
リューグはロッカの腕に、自身の顔を埋めたのだった。






余談ではあるが、抱き着いてから暫くしたのち―――――
だんだんと覚醒してきたリューグが真っ赤になりながら怒り狂うのだが、それはまた別の話である。


















りゅ、リューグが別人すぎですみませっ・・・
どうしたらお兄ちゃんに抱きついてくれるかな、とですね。
はい、抱きついてもいいかって言わせたかっただけです(爆
こういう幼少時代だったら萌えるんですけどねーv
未来を想えるのは幸せの証拠かな、とか思ったりします。