それから


些細なことでケンカして、数日たった未だにギクシャクした状態が続いている。
俺だっていつも通りに戻りたくないわけじゃない。
だけどっ。向こうが謝ってこないんだから仕方ないだろ。
俺から謝るなんて、絶対ゴメンだからな。

「もー、リューグ。いい加減仲直りしろよ」

呆れたように肩を竦めたマグナを、キッと睨みつける。
だがマグナは対して気にした風もなく、のほほんとしたままだ。
ったく。俺が本気で睨んでないこと気づいてやがんな、こいつ。
なんだか面白くなくて抱えていた枕をギュッと抱き締めると、マグナが苦笑する気配がした。

「リューグはさ、どうしていつもケンカばっかりするんだよ」
「・・・テメエとネスティの野郎だってしょっちゅうやってんじゃねぇか」

心配して言ってくれているのは分かったが、つい恨みがましくそんなことを呟いてしまう。
ちらっとマグナのほうを見てみると、うーんと唸りながら困ったように首を捻っていた。

「それはそうだけど、アレはだいたい俺が悪いわけだし・・・リューグだってそうだろ?」
「俺は違う」

・・・なんて、きっぱり言い切ってみたものの、俺だって分かってる。
兄貴とのケンカは7割方――そう、あくまで7割方だ――は俺のほうに責任がある。
けど、今回は違う・・・はずだ。

「まったく、本当意地っ張りだよな」
「うるせぇ」

思いの外ガキっぽい拗ねたような口調になってしまって、マグナが声を立てて笑いはじめる。
それにまたむっとした気分でいると、突然笑い声が止んで、マグナの神妙な声が耳に届いた。

「でもさ、正直なところ早く仲直りしたほうがいいぜ?」
「なんでだよ、マグナには・・・」
「関係ない。とか言うなよ」
「うっ・・・」

図星をつかれて言葉に詰まっていたら、不意にマグナが酷く真剣な顔つきを見せた。

「一緒にいたいと思ってるだけじゃ、ダメなんだって俺は思うよ」
「俺は別にっ・・・」
「なあ、リューグ。君はさ、自分の立場に甘えてるんじゃないのか?確かに、ずっと弟ではあり続けられるのかもしれない。けど、リューグが求めているのはそうじゃないんだろ」
「そ、れは・・・」

続く言葉を見付けられずにいた俺に、マグナがにこりと笑いかけてくる。
その笑顔がどこか淋しげで、今にも泣き出しそうに見えたのは気のせいだろうか。

「大丈夫。リューグ、あとは行動あるのみだよ!」
「行動って・・・」

そんな簡単にできるようなら、最初からケンカなんてしてない。
思ったそれは口から出ることなく、突然開いた扉の音に遮られた。
ゆっくりと室内に入ってきた人影はふたつ。そのうちの一人に、マグナが笑いかけた。

「ネス!ナイスタイミングだな」
「まったく・・・君の頼みはろくなことがない」
「まあまあ、そう言うなって」

俺たちを置いてけぼりにして、どこかほのぼのとした会話を繰り広げていたと思ったら、いきなりマグナがぴょんと立ち上がる。

「じゃ、ガンバレよ」

ぽかんとしている俺にウインクとともに言葉を投げかけると、ネスティの背中を押して一緒にこの場から立ち去ってしまった。
つまり部屋に残されたのは俺ともうひとり――――――兄貴だけで。
・・・・・・あの野郎、余計なことしやがって。だいたいあいつはお節介すぎんだよ。
俺をここに呼んだのも最初から兄貴を引き合わせるためで、多分ネスティにここに連れてくるよう頼んでいたんだろう。
そんなことしてくれなんて一言だって言っちゃいないのに、相変わらず人のことばっかり気に掛けるお人好しの馬鹿野郎だぜ。
はあっと、心のなかだけで溜め息が漏れる。
でも本当に馬鹿なのは、そこまでしてもらわなきゃ一歩踏み出すことすら出来ない俺自身だろうな。

「兄貴」

発した声が情けないくらい震えていて、気持ちが折れそうになる。
『大丈夫』
だけどそう言って背中を押してくれたあいつのためにも、ここで負けるわけにはいかなかった。
甘えてる。まさにその通りだ。

「あのよ・・・その、悪かった」
「・・・え?」
「だからっ。何時までも意地張って、ガキみてぇに拗ねてて悪かったっていってんだよ!」

恥ずかしさで半分逆ギレのようになりながらも、なんとか最後まで言い終える。
ちらりと兄貴の様子を窺うと、驚いたように目を瞬かせていた。

「・・・珍しいね。リューグから謝ってくるなんて」
「べ、つに。んなことねぇだろ」
「いや、そんなことないと思うけど。・・・うん、でも」

不思議そうに言って、でも次の瞬間には兄貴がにこりと笑った。

「僕もごめんね、リューグ」

久しぶりに真っ直ぐにそそがれた視線と。
久しぶりに穏やかな笑顔と。
たった数日振りのそれが、まるで数年振りかのような気がした。
アホみたいに心臓が高鳴って、顔に熱が集まるのが分かる。

「ねぇ、リューグ」
「んだよっ」
「仲直りの記念に、今日一緒に寝ようか?」
「はっ・・・なっ!?馬鹿じゃねぇのか!?」

突如掛けられた言葉にますます赤くなる俺に、兄貴が意地の悪い笑みを浮かべた。

「僕は一緒の布団で寝ようって言っただけだよ」
「っ!?」
「リューグってば何を考えてたの?本当、やらしいんだから」
「だだっ、誰がだっ!!?」

それはいつも通りの、軽口の応酬で。
俺をからかって遊んでやがる兄貴にはやっぱりムカつくけど、それも嬉しいとか思ってしまう。

「・・・やっぱり、こういう風に言い合ってるほうがいいよね」
「・・・・・だな」

感慨深げに呟く兄貴に偶にはと素直に同意すると、案の定驚いたような顔をしやがった。
でもその後すぐに、まあその・・・嬉しそうに目を細めてやがったから。
行動あるのみ、なんだろうな。やっぱり。
ああ後で、マグナにも礼を言っとかなきゃいけねぇ。・・・素直に、な。














ロカリュなのに、マグナの出番が何気に多いような・・・
しかもロッカとあまり絡んでなくてすみません(汗
次こそはもっといちゃいちゃしたロカリュをっ・・・!