今日も慌ただしい1日が終わり、あとは部屋に戻って寝るだけだった。
ただその途中に散歩に行こうと誘われて。
まあ、寝る前の予定がいっこ増えるだけかと、リューグはこくりと頷いた。





   焼餅一丁、入りました






初めは、真っ暗な闇かと思った。
けれどそこは完全な闇ではなく、ぼんやりと明るい光に照らされている。
欠片のような月の微かな光と、数多に輝く星の光。
ひとつひとつは大したことのないものでも、集まれば大きな力になる。
そんなことをふと思って、リューグは夜空から目を離した。

「なに考えてたの?」

少し前を歩いていたロッカが、穏やかに笑い掛けてくる。
いま自分の考えていたことが何だか気恥ずかしくて、リューグはふんっと鼻を鳴らした。

「別になんも考えてねぇよ」

そんないつものつっけんどんな態度に、ロッカがクスリと笑う。
そして悪戯っぽく、その目を細めた。

「恥ずかしがらなくてもいいのに」
「なっ、誰が!」
「どうせマグナさんとかネスティさんのことでも考えてたんでしょ?」
「ちげぇよ!別にあいつらのことだけじゃ・・・!」
「ほら、やっぱり2人のことも考えてたんじゃないか」
「うっ・・・」

いつの間にやらすっかりロッカのペースで、彼は面白そうにクスクスと笑っている。
そんな不愉快極まりない笑い声を聞きながら、ロッカに遊ばれた怒りか、図星をつかれた恥ずかしか、
リューグは顔を真っ赤にして押し黙った。

「そんなに顔真っ赤にしちゃって、可愛いね。リューグは」
「んなっ!?馬鹿じゃねぇの!」
「ああ、うん。確かに僕はリューグ馬鹿かも」
「・・・っっ、いっ、言っとくがな、俺は怒ってんだからな!」

リューグの必死の叫びも、わかってるよ、なんて軽く流されてしまう。
やっぱり散歩になんかくるんじゃなかった。
帰ろうと足を踏み出しかけたその時、それを邪魔するかのように強い風が吹き抜ける。
思わず目を瞑ったリューグに、ポツリと呟かれたような言葉が聞こえてきた。

「もう、妬けるなぁ・・・」

は?と思って彼のほうを見ると、珍しく眉間にシワを寄せて、なにやらぶつぶつと呟いている。
さっきまであんに楽しそうにしていたはずなのに、この変わりようはなんなのか。
わけが分からず、リューグはまじまじとロッカのことを見つめてしまった。

「まったく・・・リューグは人の気もしらないで、マグナさんとネスティさんのことばっかりなんだから」

はあっと、ロッカが盛大な溜め息を零す。
リューグがいることに気が付いているのかいないのか。
ロッカは怒ったように、むっと唇を尖らせた。

「たまには、僕にだって構ってくれればいいのに。独り占めさせてなんてくれないんだしさ」

いつもムカつくほど余裕ぶっていて。
兄貴面してはあれこれ指図してきて。
今日だって、それは変わらないと思っていた。思って、いたのに。
リューグはにやりと、唇の端を吊り上げた。

「ヤキモチかよ、兄貴」

からかうような声色にはっとしたのは、もちろん彼で。
リューグの姿を捉えると、その眼がみるみる見開いていく。

「なっ、え!?り、りゅっ!」
「カワイイとこあんじゃねぇか。なあ、兄貴?」
「っ、いつ、から・・・?」

薄々分かってはいたが、やはり気付いていなかったらしい。
恐る恐ると言った感じで尋ねてくるロッカに、それはもう満面の笑みを浮かべてみせた。

「リューグは人の気もしらな」
「わぁっ、わぁぁ!」
「なんだよ、人が喋ってんだろ」
「もういいっ、分かった。分かったから!」

珍しく必死に声を荒げるロッカに、リューグは楽しそうにからかうと笑う。
居たたまれなくなったのか、ふいっと顔を背けたロッカの顔は耳まで真っ赤だった。
愛されてるなぁなんて。
漠然と思って、リューグの頬にも朱が差し込んだ。
そんなリューグには気が付かないのか、ロッカが色々と誤魔化すように咳払いをひとつ。

「もう遅いし、戻ろうか」

ワザとらしく声をあげ、顔を隠すように俯かせながら、もと来た道を引き返しはじめる。
足早にリューグの横を通り過ぎようとした、その時。

―――ぎゅっ。

リューグは後ろから、ロッカの体に抱きついた。
離れないように、しっかりとその腕に力を籠める。

「りゅ、リューグっ!?」
「・・・バカ」

うわずったロッカの声に、小さく返事を返す。
恥ずかしくてどうしようもなくて、彼の背中に顔を押し付けた。

「独り占め、したいんだろ」
「・・・え?」
「だから、独り占めだよっ」

首を傾げたロッカに半ば叫ぶようにしながら、さらに強く顔を押し付ける。
らしくない。でも、たまにはいいじゃないか。
こんな日が、あったって。

「・・・すれば、いいだろ。いま、独り占め」

ポツリと呟かれた言葉に、ロッカが大きく目を見開く。
背中越しにリューグの体温を感じながら、ゆっくりと口を開いた。

「い、いの?」
「聞くんじゃ、ねぇよ・・・バカ兄貴」

返答とともに、更に強くなる腕の力。
ロッカは堪らなくなって、リューグの腕を振りほどかないようにしながら、くるりと向きを変えた。

「リューグっ!」
「って、おい!まっ・・・」
「待てない。だって、独り占めの最中だからね」

にっこりと満面の笑みを浮かべれば、観念したのかふっと体の力を抜いて。
ぐっと今度は胸に押し付けられた体を、ロッカはそっと抱き締めたのだった。












兄さんにも可愛いところがあるんですよ。
ということが言いたかっただけです(笑
いつもは精一杯背伸びしてるんですよ、きっと!
余裕のあるロカリュも好きですが、頑張っちゃってる兄さんも大好きです。