いつまでもずっと



今日もこの島はいい天気で、体に心地よい風が吹いている。
「ん〜・・・いい天気だなー」
伸びをしながら、今日は何をしようかな、なんて考えていた。
天気もいいし、皆で外で遊ぶのもいいかもしれない。
すると突然、誰かに抱きつかれた。
「センセ、おはよ」
「うわっ」
びっくりした俺は、思わず情けなく悲鳴を上げてしまう。
相手もそう思ったのか、俺に抱きついたまま笑い声をあげた。
「やーねー、先生ったら。あたしよ、あたしv」
「なんだ、スカーレルか」
後ろで笑っているのがスカーレルだと気づき、俺はホッと胸を撫で下ろす。
けど、何が勘に障ったのか、スカーレルが突然怒り出した。
「なんだとはなによ、なんだとは。失礼しちゃうわねー」
「あっ・・・あはは、ごめん」
俺は苦笑しつつ、返事をかえした。
そんな怒らせるようなことしただろうか。もしそうなら、悪いことしたかもしれない。
「ねぇねぇ、ところでセンセ」
「へっ。なっ、何」
いつのまに機嫌が回復したのか、スカーレルが笑顔で話しかけてくる。
何だったんだ、いったい。
「このあと2人で遊びましょーよ」
「2人で?」
「そうよ。あたしと先生の2人で」
スカーレルはそう言いながら、俺にさらに強く抱きついてくる。
そんなに強く抱きつかなくてもいいのに。というか、苦しい。
それを訴えようと後ろを向こうとしたら、急に息苦しさと、背中の重みが消えた。
それと同時に、スカレールの叫び声が聞こえてくる。
「いったいわね、なにすんのよ!!」
「ソノラ」
そこには、スカレールのほかにソノラの姿があった。
俺と目があったソノラが、なにやらあっちいけのポーズをしている。
「ほら、先生何やってんの。早く向こういって」
「えっ、でも・・・」
「いいから行くの!!」
「うっ、うん」
「ああっ、先生まって〜」
なんだかよく分からないけど、ソノラの剣幕にけおされて、その場から立ち去ることにする。
女の子にけおされるなんて、ちょっと情けない気もするんだけど。
背中越しにスカーレルの声も聞こえたけど、とりあえずここはソノラの言うとおり、この場から立ち去った。
次にどこへ行こうかとボーっとしていたら、お腹がすいてきた。
そのため、というか、とりあえず台所に行くことにした。
「なんか、良いにおいがする・・・・」
部屋に入ったとたん、辺りから良いにおいがしてきた。
何か作ってるのかな。
「おや、レックスさん?」
「んっ・・・あっ、ヤード」
においのするほうへと歩いていったら、ヤードに声をかけられた。
どうやら、これの原因はヤードだったらしい。
やっぱり何かを作ってるみたいだったけど、俺にはそれが何なのか、さっぱりわからなかった。
「これは、おしるこって言うんですよ」
「おしるこ?」
そんな疑問が顔に出ていたのか、ヤードが親切に教えてくれる。
聞き慣れない単語を耳にして、俺は首をかしげた。
「はい、ゲンジさんの故郷の食べ物らしいですよ。作り方を教わったので、作ってみたんです」
「へー、ゲンジさんに。どんな味なんだろうなー・・・」
ゲンジさんは、俺たちとは違う世界に住んでいる人だから、ここの世界にないようなことをたくさん知っている。
そして、これもそのひとつらしい。
いったい、どんな味がするんだろう。
「レックスさん、よかったら一緒に食べませんか?」
「いいの!?」
「もちろんですよ」
もの欲しそうな顔でもしていたのか、ヤードが嬉しい申し出をしてくれた。
俺は嬉しさのあまり、自然と笑顔が滲み出てくる。
そんな俺を見ながらヤードは、それに、と前置きして言葉を続けた。
「1人で食べるには多すぎますから」
「えっ、それじゃあなんでそんなに作ったんだ?」
もしかして、最初から誰かと食べる予定だったんじゃないか。
そんな不安が胸をよぎり、慌ててヤードに確認する。
だけど俺の不安をよそに、ヤードはにっこりと笑いながら、俺の質問に答えた。
「それはですね、レックスさんと一緒に食べ・・・」
「おー、先生。こんなとこにいたのか」
「うわぁっ」
すると突然、誰かに抱きつかれた。
なんだか今日はやけに、抱きつかれているような気がする。
「なにしてるんですか、カイルさん!!」
「カイル〜??」
またスカーレルだと思ったら、どうやら違ったらしい。
今度は、カイルだったのか。
「おお。なっ、釣りに行こうぜ」
「釣り?」
突然現れて、唐突に何を言い出すんだろう。
なんだか、話の脈絡がつかめなくて、混乱してしまう。
「ちょっと待ってください、カイルさん!!レックスさんは、いま私と・・・」
「さぁ、先生行こうぜー」
「えぇっ!?あっ、ちょっ・・・」
ヤードが話すのも無視して、カイルがスタスタと歩き出していく。
俺はというと、そのままカイルに引きずられて、釣り場へと連れて行かれてしまった。






   *  *  *  *  *






「なかなか釣れないなー」
「そうだねー」
釣り場へとついた俺たちは、さっそく魚を釣り始める。
おしるこが食べられなかったのは残念だけど、釣りも嫌いじゃないから、まぁいいやと思うことにした。
「ああ、くそっ。ぜんぜん釣れやしねぇ!!」
「落ちつきなよ、カイル」
まだそんなに時間がたった訳でもないのに、なかなか魚が釣れないことに対してカイルが騒ぎ始める。
でも、魚釣りってそういうもんだと思うんだけど。まぁ、カイルは短気そうだから、釣りにはむいてないかもしれない。
あれ?それじゃあなんで、俺を釣りに誘ってくれたんだろう。
「ねぇ、カイ・・・」
そのことを聞こうと声をかけようとしたけど、やめることにした。
とても、声をかけられる様な状態じゃない。
カイルはともかく、俺は魚がかかるまでの待ち時間は、決して嫌いじゃない。
ボーっとできるし、色々考えられるし。
「あっ・・・」
そこでふと、気付いてしまった。
そういえば、今日はあの子にあってない。
いつもなら真っ先に会うのに、こうも長い間顔を合わせてないと、変な気分だ。
いま、どうしてるのかなぁ。
「おう、先生!!」
「なっ、なに?」
今まで騒いでいたカイルに急に名前を呼ばれ、少し動揺してしまう。
でも、カイルはそんな俺を気にせずさっさと用件を話し始める。
「ちょっと、気分転換にその辺歩いてくるからよ。先生は、ここで待っててくれ」
「気分転換?うん、わかった。ここで待ってるよ」
カイルはそう言いながら走り出し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
気分転換なのに、あんなに急ぐ意味はあるのだろうか。
「・・・・1人になちゃったな」
なんだかんだで、今日は1人でいることがなかったから、なんだか寂しさを感じてしまう。
じきに、カイルが戻ってくるだろうと思い直し、釣りを再開しようとした。
そのとき、後ろから声をかけられる。
「せんせーい!!」
「うひゃあっ!」
その声に驚いた俺は、とんでもない声を上げてしまった。
おそらく、今日一番の情けない叫び声だろう。
「先生ってば、びっくりしすぎだって」
「ナッ、ナップ〜!?」
その叫び声を聞いてケラケラ笑っていたのは、俺の教え子であるナップだった。
教え子にあれを聞かれたかと思うと、情けなさ倍増だ。
「先生、先生!!」
そんな俺を知ってか知らずか、ナップが無邪気な笑顔で、俺の服の袖を引っ張ってくる。
「どうしたんだ?」
「俺と一緒にきて!!」
「いっ、今!?あとでじゃだめなのか?」
「だめ!!ほらはやく、はやく」
「うわっ、ちょっ、ナップ〜〜」
俺はそのままナップに引っ張られて、どこかへ連れて行かれてしまう。
なんか、今日はこんなことばっかりだ。
俺はどこかにいるはずのカイルに、大声で謝罪した。






   *  *  *  *  *






「ここは・・・・?」
「なっ、キレイだろ!!」
ナップに連れて来られたそこは、一面の花畑。
この島にこんなところがあったなんて、今まで知らずにいた。
「うん、とってもすごいよ!でも、こんな所いつみつけたんだ?」
「へへっ。マルルゥたちに教えてもらったんだぜ」
ナップは得意げにそう答えると、こっちこっちと手招きして俺を呼び寄せる。
そこには、たくさんの食べ物や、飲み物が置かれていた。
「ナップ、これ!?」
驚いて声を上げた俺に、ナップが近よってきて、俺の手を握り締める。
そして、そのまま俺の顔をの覗き込むような形で話し始めた。
「ヤードが教えてくれたんだ。今日はいつもお世話になってる人に、これからもよろしくって言う日なんだって。だから、木の実とか集めて、ここに先生を呼んだんだ」
「ヤードに・・・」
ということは、おそらくゲンジさんに教えてもらったことだろう。
ナップを朝から見かけなかったのは、朝からずっと俺のために頑張ってくれていたからだったんだ。
そう思ったら、なんだかすごくナップに対して愛しさがこみ上げてくる。
「これからもよろしく、ナップ」
「あぁ、先に言うなよ!!」
ナップは顔をムスッっと膨らませると、握っていた手を離した。変わりに、俺の腰に手を回し、そのまま抱きついてくる。そして小さく、これからもよらしく、とそう言ってくれた。
本当に、これからもこんな日が続けばいいな。
心地よい風に吹かれながら、そう思った。


















お正月とか言いながら、まったくお正月っぽくないですね(汗
しかも、先生の1人称が妙に淡々としている気が・・・・。
ソノラも何故あそこに出て来たのか(ぇ